14歳の時に交通事故に遭い、昏睡状態が続いていた豊が10年の眠りから突然覚めた。しかし、彼を出迎えたのは懐かしい家族ではなく、藤森という風変わりな中年男だった。産廃処理業を営む藤森は豊の父・真一郎の友人で、離散した豊の家族に代わって数年前から東京郊外にある豊の家の一部を釣り堀に改造して暮らしているらしい。藤森に連れられて、すっかり変わり果てた家に帰る豊。彼は心のリハビリを兼ねて、かつての友人たちに会って失われた時間を取り戻そうとするが、既に成人している友人たちとの溝は埋められる筈もなく、ひとりやりきれなさに苛まれるばかりであった。そんなある日、一頭の馬が豊の家に迷い込んできた。豊は藤森に頼んでその馬を買い取り、ポニー牧場を作り始める。豊の家はかつてポニー牧場を経営していたのだ。暫くすると、今は宗教活動をしている父やアメリカへ留学している筈の妹・千鶴が恋人の加崎と共に帰ってきた。しかし、10年ぶりの家族の再会はどこかぎこちなく、数日後、彼らは再び家を出ていってしまう。また、千鶴から母・幸子の住所を聞いた豊は、父と離婚し自立している母に会いに行くも、どうやら彼女には一緒に生活している誰かがいるようだった。その後、豊はポニー牧場再建に向けてこつこつと働くようになる。ポニー牧場が出来れば、家族も元に戻るかもしれないと信じながら。やがて豊の努力が実り、ポニー牧場が完成した。そして、それに合わせるかのように千鶴や幸子が戻ってきた。父はアフリカに行ってしまったが、再び家族が顔を合わせ、ひとつ屋根の下で生活を始められたことに豊は満足であった。ある晩、家族でテレビを囲んでいると、アフリカへ向かう船の沈没を伝えるニュースの中に父親の名前が流れた。心配する豊たち。だが、暫くして父の無事が確認された。家族の心配をよそに飄々とテレビのインタビューに答える父の姿を見ながら、ホッと胸を撫で下ろす豊たち。その光景は、束の間ながら家族が久しぶりに揃った瞬間でもあった。しかし翌日、千鶴も幸子も再び家を出ていってしまう。その上、豊を事故に遭わせた室田という男が、豊の幸せをやっかみ牧場を滅茶苦茶にしてしまった。全てを破壊された豊は、その時、気づく。自分は10年間のブランクを埋めることばかりを考えて、現実に目を向けようとしなかったと。「そろそろ目を覚ます時が来た」そう悟った豊は、産廃の不法投棄を役所に咎められ雲隠れしていた藤森と一緒に、別の土地で人生をやり直すことを決める。ところが、トラックに馬を乗せようとして、彼はスクラップの下敷きになってあえなく命を落としてしまう。今際の際、豊は藤森に尋ねる。「俺、ちゃんと存在した?」数日後、豊の家族が顔を揃えた。だが、皮肉にもそれは豊の葬儀の日であった。
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